【DV法】DV法・保護命令制度とは

配偶者等の間での暴力等について一定の規律を規定しているDV法、とりわけ具体的な法制度として接近禁止等の当事者間に効力をもつ保護命令制度について概観し、あわせて、その周辺部分の問題等について若干触れたいと思います。
 
1 DV法とは
 DV法の、正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(平成13年4月13日法律第31号)で、施行日は同年10月13日(一部は同年4月1日)です。この法律は、女性に対する暴力についての取組みの一環として超党派の女性議員が中心となって法律案を作成し、成立に至ったものです(詳解221頁)。
 DV法の中で規定されている保護命令制度は、配偶者等の間での暴力に関して、被害者の生命や身体を守るため、刑罰で担保され、簡易・迅速な制度に発令できる制度として導入されたものです(詳解17頁参照)。「配偶者からの暴力の被害者が多くの場合、女性である」ことを前提としている(DV法前文)一方、具体的な保護命令制度では、条文上、加害者・被害者の性別の違いなく保護するものとなっています。
 
2 保護命令制度とは
(1) 特徴
 保護命令制度は、配偶者等の間での暴力・脅迫があり、今後、暴力によって被害者の生命身体等に重大な危害を受けるおそれが大きいときには、危害が加えられるのを防止するため、一定期間の、接近禁止、電話等の行為禁止、退去命令を発令し、場合によっては、同居の子や親族への接近禁止を発令するという制度です。
 要するに、加害者は被害者に一定期間近づけなくなったり、電話等での連絡を取れなくなったり、子どもや相手方の親族に近づいたりできなくなるという制度です。
 前述のとおり、刑罰で担保され、簡易・迅速な制度に発令できる制度ですので、加害者と接触するおそれを下げられる被害者にとっては、精神的な安心をもたらし、現実の生命身体の保護を図れる制度ということになりますが、他方、加害者側にとっては、住居からの退去、子どもとの接近禁止といったとりわけ大きな影響を及ぼす効果もあり、仮に誤って加害者と認定がされた場合には大きな被害を受けることも指摘しておく必要があるかと思われます。
 保護命令制度は、本来、民事行政的作用を有していると考えられています(解説113頁)が、執行力はありません(DV法15条4項)。私人の申立てにより裁判所が発する保護命令の実効性を、刑罰の制裁によって担保しようとするものであることは、日本の法制上類例を見ないものとといわれています(判タ1100-27「審理手続」。判タ1067-4「イメージ」)。
 
 
(2) 民事保全法上の保全処分との違い
 人格権に基づく妨害排除又は妨害予防請求権を被保全権利として、加害者に対し、被害者への接近等を禁止する命令を出すことは従前から可能でしたが、下記の問題点・批判等がありました(詳解17頁。解説109頁)。
 ①決定までに時間がかかり、迅速性に欠ける場合がある
 ②加害者からの損害賠償請求権に備えて担保が必要となる場合がある
 ③違反に対しては民事上の制裁しかないため、加害者への心理的抑止効果に頼る部分が大きい
 
 さて、それぞれの点で補足的に述べます。
 ①の点ですが、迅速性は運用の問題のため、民事保全法とDV法とでは法文上直ちに差があるわけでもないのですが(DV法13条は「速やかに裁判をするものとする」として配慮はしていますが、当然に影響を及ぼすことにはなりません)、特別法として手続の整備がなされ、運用もそれに見合ったものにするということで、すんなりと認容される場合にはかなり迅速に発令されるようになったと言われています。
 
 
 ②の点ですが、民事保全上、無担保で発令される場合はごく例外的な事例にとどまりますので、担保が必要とされるとその金銭の準備に手間取り、あるいはそれが出来ずに発令を受けられないというのは、被害者側の立場として大きな問題点であったと思われます。ただし、損害賠償請求権は、被保全権利が本案訴訟で立証されなかった場合(つまり、加害者による暴力等が認定されなかった場合)に発生するものであり、発令に誤りがあった場合には申し立てた人が予め立てた担保により金銭的な賠償を受けられるという相手方の最低限の権利保障という側面もあったわけです。誤判等に対する相手方の救済という側面では後退した(保全の事案は最終的な判断がぶれ得るのは制度の性質上当然なわけですが)ともいえるかもしれません。いずれにせよ、制度的な選択ですので、ここでは細かくは触れません。
 
 ③の点ですが、刑事罰となれば、身柄拘束、裁判・前科となり、民事上の制裁に比べると抑止力はけた違いになります。要件に対する効果として強力すぎるという面もあるかもしれませんが、発令された場合には、その結論をあくまでも裁判内で争い、裁判外でどうこうしようとはしない、という線引きはされるようになったといえるかもしれません。

 cf)なお、立証については、DV法では、民事保全法と違い(同法13条2項は、「保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない」と定める)、保護命令発令の要件及び必要性について疎明とする規定はなく、証明を要すると考えられています(解説132頁、判タ1100-28)。
 したがって、法律上の用法として考えると、疎明よりも証明の方が立証の程度は高度であり、DV法は資料収集が大変だとなるはずですが、民事保全法のうち仮地位仮処分の疎明は高度(=証明類似)とされる一方で、DV法では、前記のDV法及び保護命令制度の趣旨から、DV法の保護命令制度の証明が通常の裁判ほどの厳格な手続を踏んでいるわけではないので、両者はかなり接近しているとも考えられ、実際の証拠収集・提出において、両命令の間にはさしたる差異はないようにも思われます。DV法が限定した事項を対象にしていることからすると、収集対象や手段が明確化される傾向があるため、むしろDV法の立証の方が容易ともとれます。
 その意味では、この点においても、新たにDV法を制定した意義があるかもしれません。


(3) 他の法律との関係
 離婚調停あるいは親権者の指定の手続とは無関係であって、直接の影響はないのが建て前です。ただ、保護命令が発令されたということが家裁での調停等において事実上の影響を及ぼしている可能性もないではないようです(少なくとも発令を受けた申立人は、受けた事実を強調する例があるようです)。
 当事者においても、保護命令手続の審問に呼び出した場合に、離婚の話をすると誤解して離婚したくないと述べたり、申立人は子供の親権者として不適格だと主張するようなことも散見されるようです。また、その実効性が刑罰規定により担保されていることから、保護命令の発令によって前科となると誤解することもないわけではないようです。この制度自体が比較的マイナーであること(昔に比べれば知名度はあがっているでしょうが)に加え、迅速な裁判が求められている関係上、相手方が弁護士などの法的な支援を受けるまもなく、審問期日に出頭する事例が少なくないことの表れかもしれません。