刑事損害賠償命令制度の対象事件の限定の意味

損害賠償命令制度は、これを行える犯罪の種類が限定されている。
それは、刑事の裁判官が刑事事件の記録を用いて
簡易迅速に損害の判断をすることができるものとするためである。

例えば、傷害は対象となるが、窃盗のように軽微な事案が混じる上、被害額の評価が難しいものや、
過失運転致傷などの過失割合が容易に問題となる犯罪類型は対象から外されている。

このように書くと分かりやすいが、実際の外延をどう理解すれば良いのかはいまいち分からない。

傷害と別に窃盗事件が、同じ被告人と被害者の間で遭ったばあい、両者は併合罪であるから
傷害事件で損害賠償命令の申し立てをしていたとしても、
窃盗という不法行為(財産的な被害額)などが
損害賠償命令の訴訟物となることはない。
必要があれば民事訴訟で解決すべきということになる。

では、傷害と一罪となる次の事例はどうだろうか。
まず、住居に侵入して傷害に及んだという事実関係において、
実際に訴因として明示され、侵入と傷害が科刑上一罪として訴追されている場合がある。
また、同様の事情でも、侵入は訴因とはなっておらず、傷害のみが起訴されている場合もある。
このほか、傷害の前段階にしつような暴行がなされ、意図や時間的な密着性から後になされた傷害と包括一罪とされた
というような場合もあり得る。

一番最後の類型については、傷害罪の慰謝料等を算定するにあたり、前のしつような暴行を考慮することができるように思う。
また、侵入傷害という事実関係の場合にも、訴因の有無に関わらず、その場所において傷害を行っているという形で
傷害の被害結果の加味して算定の基礎事情にできるようにも思える。
しかし、住居侵入が審判対象となっていないのに、たまたま、関連する(牽連関係)があれば、できるといえるのだろうか。

また上記は牽連犯の問題であったが、観念的競合も同じ科刑上一罪に当たる。
観念的競合となるとさらに様々な犯罪が一罪として取り込まれてくるが、それらもみな損害賠償命令制度の俎上に載せてしまうと
対象犯罪をかなり限定している趣旨にそぐわない結果になってしまわないだろうか。

あくまで、傷害結果(慰謝料)を算定する事情としてふさわしいものだけを取り込むということもあり得るが、
それだと、どこまでは基礎事情として取り込めるかが不透明に思われる。


 以上は、審判の対象、損害額算定の基礎の問題である。
 ほかには、和解する際には、対象犯罪を超えた部分まで取り込んで和解を行えるか、とか
 和解にあたって第三者を連れてきて損害賠償を連帯保証してもらうなどの付加的な要素を
 制度として許容することができるのか、といった問題も思い浮かぶ。

 民事でできることが全部できるわけではないと理解されている損害賠償命令制度。
 どこまでで考え、処理するのがふさわしいのか、切り分けの基準を知りたい。