【捜査】生体認証と強制処分(捜査)

昨今の電子機器その他、重要な情報を保有しているものについては
その情報保護として、パスワードだけでなく、
虹彩認証、指静脈認証、指紋認証などの生体認証もついていることが
増えてきているように思う。
認証用の機器の性能向上や小型化が理由の一つなのだろうか。

とまれ、重要な情報を保護するのは大切である。
もっとも、情報の保護が強固すぎると、
例えば、捜査機関も犯罪にかかわる証拠物から十分に情報を入手できなくなり
犯罪者たちにとっても有利に働くことになってしまうかもしれない。

そこで、こういった生体認証と捜査の関係とがどうなっているのか、
アメリカの方でいろいろと話題になっていたようなので
指紋の例を調べてみた。fingerprint order iphone

そうすると、アメリカでは強制的に指紋を用いて解錠することについて
憲法修正5条の中の「何人も刑事事件において、自己に不利な供述を強制されない。」との定めとの関係で
議論等がなされているようであった。
パスコード(パスワード)を無理やり言わせて解除することは許されないとする立場の一方で、
指紋を採取するのは証拠集め的なもので供述の強制ではないとする立場が裁判所では有力のようで、
一部、法学者がパスコードと同様に指紋による解錠も修正5条の問題になるとの見解を示していたようです。

少し詳しい裁判例としては
https://arstechnica.com/tech-policy/2017/01/court-rules-against-man-who-was-forced-to-fingerprint-unlock-his-phone/
ミネソタ州の控訴裁判所で2017年1月17日(火)に出されたものがあるようです。
この事案は、2015年に強盗などの罪によって51か月の刑に処せられた被告人が、
その捜査の際に、自己の指紋を強制的に利用して携帯電子機器のロックを解除したことが
修正5条に違反するとして、損害賠償請求か何かを起こしたというもののようです。

控訴裁判所は被告人の訴えを退けたようです。
指紋の強制は、血液や筆跡・声のサンプル提供、特定の服を着せることなどと同様に「供述」ではないと判断しました。
Instead, the task that Diamond was compelled to perform—to provide his fingerprint—is no more testimonial than furnishing a blood sample, providing handwriting or voice exemplars, standing in a lineup, or wearing particular clothing,” the appellate court found.

また、捜査官が被告人にどの指が解錠に使われる指かと尋ねて、被告人が答えたという点についても
裁判所の令状は、必要となれば全部採取してよいという趣旨であるので、被告人が答えたとしても
(単なる省力化、効率化であって)そのことで供述を強制されたというものではないということも
付け加えているようです。

日本では同様の問題が喫緊の課題として表面化してはいないようです(ちょっと検索した感じ)が、
これは地理的・国家的な要因で差が出る問題とも思われないので、
遠からず問題として扱われるように思います。

個人的な感覚をいうと、
強制的に指紋を使ってロックを解除することは
やはり日本でも黙秘権侵害とは考えられず、究極的には令状が出されると思います。
控訴裁判所が指摘していたように、服を着せてみるとか、あるいは防犯カメラの前に立たせて
その風貌などが犯人と似ているか確認する捜査は最近よく行われているようなので、
強制による指紋利用とそれらがどの程度差異があるのかと考えると、
実質的な人権侵害の程度もそれが許されないほどに強度のものとは考えにくいと思われます。

ちなみに、令状の種類は検証令状と身体検査令状の併用でしょうか。
あるいは差押え済みの電子機器なら当然検証をされるでしょうから、
直接強制を担保する令状である身体検査令状のみが発付されるというのもあり得るのかもしれません。

また、令状発付が許容されるからと言って、身体を押さえつけて無理やりやるのもあまり品がないですから
とりあえず拒否しそうだからといったような段階では令状が出されずに、拒否が明確になって他の手段での解錠が
考えられないような場合に、令状が請求され、発付されるということになるかもしれません。
覚せい剤事犯での職務質問からの強制採尿令状の請求・発付の流れみたいなものでしょうか。