【憲法】岩波書店の2013年度採用試験の応募条件について 続き

また、私企業と労働者間の契約といえども、憲法14条の平等原則の趣旨
(法のもとの平等。人種・信条・性別・社会的身分・門地により差別されない)
などの公序良俗に反する内容であれば民法90条違反で無効となります。
そして、平等原則という点では、それが本人の努力によって克服可能なものかどうかで判断されるのが相当と解されると思います。
なお、日本では解雇を許容する条件の縛りが厳しいこともあり、
採用についてはやや広めに取捨選択の余地を認めるのが一般的なように思われます。
(例えば、一定の年齢を要件に掲げることは国によっては違法になるようです)
したがって、今回の件は、岩波書店の掲げる応募資格が、
通常許容される条件を越えた公序良俗に反するものと言えるかが問題となります。

今回の応募資格は岩波書店のホームページ上から額面通りに受けとるしかないわけですが、
著者又は社員の紹介状というのは、単純なコネ・縁故とは少々違うように思われます。
というのも、この条件は血縁・地縁などではなく大学のゼミの教授などが本をだしていれば
そこにお願いに行くこと、あるいはOBOG訪問を通じて社員の推薦を受けることなどが可能です。
また、仮に社員に限定されていたら推薦される余地がかなり狭くなり
実際には特別な関係が必要になることもあるかもしれませんが、
今回は著者が含まれており、岩波書店の規模ならば、その数は相当数にのぼるはずで、
これなら不当に推薦可能な人数に縛りがかかっているとされるようなこともないと思われます。
また、額面通りなら紹介状は応募資格ということで、採用の前提であっても決定打とは認められません。
院留学などの際に大学教授の推薦状が前提として必要とされることも多いなど、
推薦状・紹介状の類いを要求することは社会一般から見て不自然な取り扱いとも言えません。
 
加えて、この条件は
真剣に出版業界への就職を考える人に応募が限定されること、
出版業界を志すなら社員や著者との接点は仕事をやっていく前提であること、
応募者がそういう条件をクリアできる能力を持つか測れること、
紹介者による事実上の一次面接・選別が行われ、企業側の採用コストが抑えられること
などの効果が期待でき、不合理、無意味あるいは無用な条件だということもないと思います。

こういったことを考え併せると、今回の応募資格については、
少なくとも、額面通りに受け止める限りでは問題とまでは言えず、
私企業である岩波書店の採用の自由の範囲内にあるのではないか、と考えます。