法曹の外部評価

前回、下級裁判所裁判官指名諮問委員会による裁判官の新任・再任情報に触れましたが、
今回は、その判断の参考資料となる情報源についていくつか公表されているものをご紹介したいと思います。
外部からの評価を参考にして任期が継続されるか判断される訳で、裁判官もなかなか大変でしょうね。
なお、裁判官の人事評価の在り方に関する研究会ということで、
最高裁での議論や評価ポイントが示されています。
 
http://jsakano1009.cocolog-nifty.com/blog/files/img-X01163234.pdf (アンケート項目・一言コメントなど)
評価者:仙台弁護士会 会員
対象:仙台地方裁判所 裁判官10人
アンケート時期:平成21年2月~4月ころ
項目
(1)弁論等:①記録をよく読み検討しているか、②訴訟指揮は適切かつ公平か、③丁寧な審理を心がけているか
(2)争点整理:争点を的確に整理しているか、②当事者の主張を十分に取り入れているか
(3)証拠調べ等:①証人、検証、鑑定の採否等、必要で十分な証拠調べの時間をとっているか、②尋問をよく聞いているか、③不当な介入、尋問制限をしていないか
(4)和解等:公正妥当な解決案の提示ができているか、②当事者の意見に配慮しているか
(5)判決:①事実認定は適切か、②法律適用は適切妥当か、③判決に説得力はあるか
(6)その他:①関係人に親切に接しているか、②事件の筋を見通す理解力はあるか、③熱意をもって職務に取り組んでいるか
(7)総合評価
 例:Fさん 5:4人 4:16人 3:15人 2: 2人 1:1人
   Hさん 5:0人 4: 2人 3:17人 2:11人 1:5人
 
<コメント>
 弁護士さんのブログですが、裁判官については、衆目一致する低評価であったり、高評価であったりする人というのも確実にいるようですね。個別の弁護士さんだけだと事件の恨みつらみだけで偏った評価もでるでしょうからある程度の回答数を集めて統計的に処理することである程度の傾向は見えてくることになるのかと思います。
 Hさんは、10人中もっとも低い評価を受けているようですが、外部からの評価に加え、もし裁判所の中でも芳しくないと思われていたら、ひょっとしたら再任などで厳しいチェックを受けてしまう、ということになるのかもしれません。能力(手続・判断)、人格(態度)などをしっかりとしていかないと裁判官も裁判官として生き残れない時代になりつつあるのでしょうか。まあ、前回見た下級裁判所裁判官指名諮問委員会の資料の数字により再任拒否率を考えると、それほど高くなく、ハードルは明らかにダメな人をはじく程度なのかもしれませんが。
 
「裁判官評価ネット 裁判官評価サイト」
評価者:ネットに参加した弁護士、学者
対象:近畿の裁判官、関東の裁判官、最高裁の裁判官?
アンケート時期:随時
注:どうやら、利用(閲覧・情報記入)できるのは、本ネットに参加した弁護士、学者に限られていますが、
一般の人でも、一応、活動方針、諸外国の事情、アンケート項目などを閲覧することはできます。
 
採点は、次の5段階評価。
 5 大変良い(この評価点について、特に優れていると考えるレベル)
 4 良い(通常のレベルに比べてより良いと考えるレベル)
 3 普通(通常、裁判官はこの程度やるべきであろうと考えるレベル)
 2 悪い(通常のレベルに達していないと考えるレベル)
 1 大変悪い(通常のレベルに達していないばかりかとくに問題である、と考えるレベル )
項目
 1)訴訟当事者等関係人に親切に接し、話を良く聞くか。
 2)当事者に対して公正で公平な訴訟指揮をしているか。
 3)記録をよく読んで審理に臨んでいるか。
 4)事件の法的争点を的確に捉えているか。
 5)証拠調べに必要で十分な時間をとっているか。
 6)適切・迅速に審理を進める工夫をしているか。
 7)当事者の意見をよく聞いて和解を進めているか。
 8)和解で妥当な解決案を示すことができるか。
 9)裁判官としての決断力があるか。
 10)事実認定能力は優れているか。
 11)事案に即して迅速に判決を書いているか。
 12)判決は説得的なものか。
 
<コメント>
ちなみに、最近の書き込み情報をみると、書き込み対象裁判官名や自由記載の冒頭部分などが表示されるので、ほんの少しですが誰にどんな書き込みがされているかをみることができます。一般の目に触れることを想定していないためか、「クズ」とか穏やかでない表現での批判も出されていたりするようです。
 
評価者:福岡県弁護士会 会員
対象:福岡高裁(民事16人、刑事8人)、福岡地裁本庁及び支部(民事39人、刑事22人)、福岡家裁本庁及び小倉支部(家事9人、少年11人)
アンケート時期:平成17年2月~6月
 裁判官全体の平均点をみると、高裁民事裁判官三・四六(平成一六年三・六二)、高裁刑事裁判官三・四五(同三・四〇)、地裁民事裁判官三・四三(同三・五四)、地裁刑事裁判官三・四四(同三・五七)、家裁家事裁判官三・三四(同三・五一)、家裁少年裁判官三・二一(同三・二二)という結果でした。
 平均点が三・〇に満たない裁判官も、高裁民事二名、高裁刑事一名、地裁民事四名、地裁刑事二名、家裁家事二名、家裁少年二名(なお、家事、少年の二名はいずれも同じ裁判官)いることから、個々の裁判官レベルでは普通以下の評価を受ける人もいます。
 
<コメント>
 紹介されているエピソードの中に「ある懇親会の席で、裁判官同士で裁判官評価アンケートに話題が及んだ際、ある裁判官が後輩の裁判官に対し、「弁護士の評価に基づいたアンケートなんか気にする必要はない。そんなことを気にする時間があったら、記録を読み、信念を持って判決を書けばいい。」ときっぱりと言い切り、たしなめる場面に遭遇したことがありました。しかし、このように言い切った先輩の裁判官に対するアンケート評価は極めて高いものでした。後輩の裁判官は、やはりアンケートの開示を求めました。当初は、その裁判官の評価は、あまり芳しいものではなはありませんでしたが、その後、次第に評価を上げられ、最終的には著しく高い評価を得るに至っておられます。いずれも立派な裁判官に思われてなりません。このアンケートの実施そのものやその結果が何らかの形で、役に立ったら幸いです。」という記載がありました。
 裁判官のそれぞれのもつ真摯さがうかがわれるエピソードで感心しました。
 
<まとめコメント>
 上記については、「裁判官 評価 公表」という単語で検索して順にみていったものでした。評価項目が基本的に似通っているのは面白いと感じられました。
 それと、裁判官の評価があるのであれば、同じように弁護士の評価もあるかと思い、「弁護士 評価 公表」という単語で調べてみましたが、それらしいサイトにはいきあたりませんでした。
 裁判官は事件で選ぶことができませんので、再任などの場面をさておけば、評価を知っていたとしてもあまりどうにもできませんが、弁護士は事件にあたって選ぶことができるわけですので、通常の人からすれば弁護士の評価一覧とかがあっても良いように思えるのですが、ありませんでした。
 その理由を考えると、①優秀な弁護士は内緒にしておきたい、②無能な弁護士を無能とネットで書くと裁判官と違って弁護士の場合には名誉毀損などで訴えられかねないと心配になる、③そもそも弁護士数>>裁判官数で、しかもいくつも事件を抱えるのは企業などに限られてきて、一般的に個々の弁護士の能力を比較するのは難しいし、評価できるレベルのところは業務情報として守秘されてしまっているなどが思い付きました。ただ、正解は良く分かりません。分かる方がいれば是非教えてもらいたいものです。