【執行】全店一括順位付け方式を否定する最高裁決定

金銭の支払を目的とする債権についての強制執行の節中の第四款として
債権等に対する強制執行民事執行法143条以下があります。
そして、その民事執行規則133条には債権執行についての差押命令の記載事項が規定されており、
そこには、強制執行の目的とする財産の”特定”が要求されています。
 
特定を厳密に求めれば、債務者の財産を探索調査する債権者側の労力・負担は大変になり、
また、現実の執行を受けられないことで裁判手続への信用を損ねることになります
(悪質な債務者が財産隠しを果たしかねない)。
他方、逆に特定を緩やかにし過ぎると、債務者に対して様々な債務を負っている第三債務者には、
多数の差押が併存したときにかかる負担が大きくなりかねないのであり、取引関係があっても直接の何かを
したわけでない第三債務者に過重な負担を掛けるのはよろしくないということになります。
 
そこで、この「特定」については、債権者の利便性、第三債務者の負担との兼ね合いで
どこまで抽象的に認めるべきかという話になるわけです。
 
そして、今回の最高裁決定は、債権差押命令が果たしている機能に言及した上で、
 
「民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定とは,
 債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,
 差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,
 かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当であ」る
 
というところでバランスをとることにしました。
 
さらに、大規模金融機関に対して”全店一括順位付け方式”という方法による預金口座の差押を
認めることはできないという判断をしました。
 
(1) <第三債務者・目的となる債権の内容>
「大規模な金融機関である第三債務者らの全ての店舗を対象として順位付けをし,
 先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは,
 順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押債権とする
 旨の差押えを求めるものであり,」
(2) <第三債務者の負担等>
「各第三債務者において,先順位の店舗の預貯金債権の全てについて,
 その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無,定期預金,普通預金等の種別,
 差押命令送達時点での残高等を調査して,
 差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り,
 後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないのであるから,」
(3) <上記「特定」規範へのあてはめ、結論>
「本件申立てにおける差押債権の表示は,送達を受けた第三債務者において
 上記の程度に速やかに確実に差し押えられた債権を識別することができるものであるということはできない。」
「そうすると,本件申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである。」
 
 今回の決定には、債権者の権利実現・救済を困難にする不当な判断だという批判をする向きも強いようです。他方、CIFシステム・ペイオフ用の名寄せシステムなどによる事務容易性ははっきりとせず、氏名・生年月日による債務者(預金者)の同一性の瞬間的な判断、差押・仮差押の把握を瞬時に行うようなシステム構築やその継続的運用は、特別な負担が大きそうだ、という判断には理があると考える方もいるようです。
(また、代理人弁護士としては、高等裁判所での認容例を増やして実務上の慣行を増やしてから最高裁にチャレンジすべきだったという戦術論にも言及がありますね。)
 
 裁判所の判断が、金融機関の事務非効率性を保護する温床になってしまうとしたら問題だろうと思う一方、
どちらかというと間接的、第三者の立場にある第三債務者が大きな負担を見返りなく引き受けなければならないとしたら、システムの構築費用・維持や運用費用などが、金融機関の利用手数料などに大きく上乗せられてしまうかもしれないという不安もあります。
 
 ここはひとつ、立法的に(特別な負担ではなく金融機関の常識的な負担化を図らせることとして)、支店管理口座ではなくて、統一口座での運用にするとか、複数取れるにしても口座数を限定した上で国民の統一的な背番号(現状、制度化されていませんが)を利用して同一性判断を瞬時に行えるようにするとか、あるいは、費用負担を債権者に支払って貰えばやれるようにするとか、一定のやり方を定めてしまうのがいいのではないかと思われました。