読書感想文

アメリカ人のみた日本の検察制度』

平易さを備え、具体的な示唆に富んだ名著である。
複雑な刑事司法制度を複雑なまま、しかし、分かりやすく根拠をもって論じている。
日本語版のまえがきで、著者は、いろいろな分野の法律関係者から広く好評を得ている
と書いている、本書が対象とする制度自体の持つ複雑さゆえに。
ここで、あえて皮肉な見方として、これに対して、各分野の人にとってどの部分が痛い所になるか上げてみたい。
普通の弁護士:本書が、刑事弁護はほとんどやることがないので、壮年の弁護士でない老年者などが同じくらい仕事ができる、と指摘する点。
ある種の弁護士:本書が、検察は比較的公正であると、全体としては評価していること。アメリカの検察制度よりも良い可能性があると述べること。一貫性、個別性、真実の追求、矯正への意欲等に関して高く評価していること
裁判官:検察官の追認機関・仲間的な評価につき、さほど言及がない(積極的に否定はしてくれない)こと。
検察官:暴力を含めた自白の強要(取り調べが過酷すぎる)、木曽基準が厳格なため被害者に対して厳しく、ときとして強いて示談させていたと指摘されていること、
国民参加を求める一般市民:日本の刑事司法が、ほぼ楽園だった要因のひとつに、アメリカと違って陪審制でなかったことがたびたびとりあげられること。
普通の一般国民:刑事司法制度の正当性の確保には、国民参加もやむを得ないこと。
いたくないのは、被害者だけくらいか。

また、この本では、具体的な逸話というか話が随所に挟まっているのも面白い。たとえば、著者が無罪判決を整理していたのに通りがかった裁判官が、自分も無罪を書きたいとつぶやいてさっていったとか。

なにはともあれ、複雑なものを複雑に取り出した分析力・叙述力・誠実さに敬意を表したい。
さらに、展望として掲げられた3つの事項が、修正を受けつつも現実の社会で実現されてきている現状を見ても、その深さがわかる。

非常に良い本だと感じた。