刑事裁判の主文における宣告と判決書の齟齬

https://news.yahoo.co.jp/articles/9379765a737feee9caacc0d696e82f2eb46409d5

› 簡裁は昨年9月5日の判決公判で懲役2年、執行猶予4年を言い渡したが、同7日作成の判決書には執行猶予が「3年」と記載されていた。関係者によると裁判所による主文の誤りは異例。

› 沖縄国際大学中野正剛教授(刑事訴訟法)は「初歩的なミスで到底許されない」と断じた。更正は一見明白な誤字脱字の場合に認められるとし、今回は「判決の命とも言うべき主文に明示された刑の内容に及んでいる」と強調。「簡裁自らが更正決定できる内容でないことも明らかで、二重にミスを犯している。裁判実務に関する研究会などを鋭意開催し緊張感を持ってほしい」と求めた。

 

 刑事裁判の主文の宣告内容とその後作成された判決書との間に齟齬があるのは問題である。行為規範としてこの点に異論はない。しかし、その是正方法について当該学者が言うように更正決定ができないかについては、議論がないわけでもないと思う。

 東京高裁平成30年11月22日判決のある解説では、「刑事裁判において、条文がないもとでも、更正決定が許されるというのが通説であり、一定の範囲で行われている。ただし、主文については、多数の見解は、判決中における主文の重要性にかんがみ、その更正は許されないとするもののようである。本判決もこのことを前提としているのであろう。しかし、この点についても、判決の言渡しが判決書の原本に基づいて行われる民事と異なり、判決が公判廷において宣告されたところに従って効力を生じるとする刑事においては、この更正決定の可否を論じるに当たっては、判決の更正と判決書の更正とを区別して論じるべきであるという見解も主張されている(小林充「裁判書」公判法体系Ⅲ240頁、同「刑事判決において更正決定をなしうる限界」)。このような立場に従った場合、本件についてどう考えることになるかなどについて、なお十分な議論は尽くされていないように思われる。」とされている。

 第一審判決確定後に原判決書の主文と宣告主文とに齟齬があることに気がついた場合、あるいは、第一審判決確定後に宣告主文と齟齬がある判決書を作成してしまった場合、誤った判決書を放置しがたいことから、更正決定をせざるを得ないという見解があり、個人的にはこの見解には首肯できるものがある。また、刑事裁判は宣告主文が正しくて、誤った判決書の更正決定は、判決書を正しい判決に直すだけという側面も指摘できる。

 そうすると、なぜ確定判決前には更正決定が許されなくて、確定判決後には許されるのかが、疑問となる。この点、本来は控訴によって是正すべき重大な誤りだが、確定すると再審させるほどの誤りではないので、便宜的に更正決定によるということかもしれないが。

 ただ、宣告主文は裁判所、検察官、被告人(、弁護人)に共有されているものであるが、判決書主文はむしろそういうものではなく、謄本請求がなければ、被告人・弁護人に判決書が当然交付されるわけではなく、記録ごとまとめて検察庁で保管され、執行の際に影響するが故に、早期に検察庁でのチェックが入るものである。ここでは、チェックがしっかりなされることこそが重要かつ本質的であり、その訂正にあたり、控訴手続という重い手続により司法資源を用いたり被告人に負担を負わせてまで、こだわるべき何かがあるのだろうか。気になるところである。

 ちなみに、原本言渡しによる民事裁判であっても、主文の更正が行われることはあるのだから、刑事裁判では、それとは異なる要件なりをたてるのであれば、その本質は何処にあるのか何なのかをよく考えないといけないだろう。