日本の刑罰は重いか軽いか(王雲海)

日米中の三か国の比較法学者の書いた新書でしたが、
読みやすく、かつ興味深い内容でした。

2か国の比較ではなく、3か国で行うことで
より視野を広くして対比できる感じを受けました。
文化や法制ではなく、その社会のもつ特質を見出すという発想で、
日本を「文化社会」、アメリカを「法律社会」、中国を「権力社会」と評したのも
イメージ的なものとして分かりやすく、大変面白かったです。

また、日本の法科大学院制度への疑問や
精密司法の肯定的評価などに言及した箇所もあり、
分かりやすいものでしたが、
個人的には、中国の法制、慣習等に言及した具体例が、
中国独特の見方などを端的に伝えていると思われ、これも面白かったです。
例えば、人民陪審制ということで、死刑執行に立ち会った経験の話
(大変複雑な心境がわきあがったそうですが)
日本国内で比較的軽罪で捕まった中国人が、
これは日本による差別ではないか、と疑問に思ったのに対して、
筆者が日本では日本人であってもこういう罪で処罰される、
中国のように軽罪で逮捕されないのとは違うという説明をすると
納得しつつも驚くという話など
文化的な差異、物の見方の多様性に触れています。

特に、裁判員制度との関係では、アメリカの陪審制は多く言及されますが、
近隣の中国での国民参加制度には、世の中では全くと言っていいほど言及がなく、
この本で初めて、こういった人民陪審制の存在や、
参加者の確保が非常に大変であることなどを知ることができたのは良かったです。
誰か、中国における人民陪審制と裁判員制度の比較をしてくれると面白そうだなあと思う次第です。

本書のテーマに対する結論につき、筆者はある意味で最終的な解答は出していませんが、
犯罪範囲と刑罰の傾向として、日本は「広くて浅い」、中国は「狭くて深い」、
アメリカは二分化されており「広くて深い、と、狭くて浅い」であるという評価を出しています。

ともあれ、法律(特に刑事系)をかじったことがある人にとっては
非常に興味深いこと請け合いの一冊かと思います、読みやすいし。

なお、この筆者の、3か国比較テーマとしては、
他に「刑務作業」、「賄賂の刑事規制」、「死刑」などがあるようです。
そちらは専門書(論文?)のようで、読むには骨が折れそうです。