否認の裁判員裁判における控訴審の破棄2件

①は、証拠採否の問題が事実認定に影響を及ぼすとの判断から破棄された模様。
②は、故意(覚せい剤の認識)の有無に関する証拠評価の食い違いであり、正面からの破棄の模様。
 
いずれも上告されるでしょうから、今後の最高裁の判断が気になりますが、
著反正義や採証法則違反ということが、パッと見にはなさそうな気もします。
 
検察庁も覆せそうな事案に限定して控訴を提起しているでしょうから、
検察官控訴での逆転率は、裁判員裁判といえども高いのだろうと思いました。
 
2011年3月29日15時32分
裁判員裁判で現住建造物等放火罪について無罪とし、窃盗と住居侵入の罪だけで懲役1年6カ月(求刑懲役7年)とした東京地裁判決に対する控訴審で、東京高裁(飯田喜信裁判長)は29日、一審判決を破棄し、東京地裁に審理を差し戻す判決を言い渡した。弁護側は上告する方針。最高検によると、一審が裁判員裁判の判決を高裁が破棄、差し戻したのは全国で初めて。
 審理を差し戻す判決が出たのは、無職・岡本一義被告(40)。2009年9月に東京都葛飾区のアパートの一室に侵入し、現金千円を盗んだうえ、ストーブ内の灯油をまいて火をつけた、などとして起訴された。被告は放火を否認し、一審判決は「放火の犯人である可能性はかなり高いが、犯人とするには合理的な疑問が残る」と判断した。
 高裁では、検察側が証拠請求した被告の前科の扱いが争点となった。被告が犯人かどうかを立証する場合、手口などに特徴のある前科を裁判の証拠として調べることがあるが、一審は「被告の前科と今回の犯行はいずれも特殊な手段とは言えない。裁判員に不当な偏見を与える恐れがある」と判断し、公判前整理手続きで請求を却下していた。
 しかし、飯田裁判長は、被告の前科の大半について、灯油をまいて放火を繰り返していた点などが今回の事件と似ていると指摘。前科について審理しなかった一審の判断は違法だと結論づけた。
 
2011年3月31日3時0分
覚醒剤取締法違反と関税法違反の罪に問われ、裁判員裁判で初めての全面無罪判決を受けた会社役員・安西喜久夫被告(60)の控訴審で、東京高裁は30日、一審・千葉地裁判決を破棄し、懲役10年、罰金600万円(求刑懲役12年、罰金600万円)の逆転有罪判決を言い渡した。小倉正三裁判長は「一審は証拠の評価を誤り、事実を誤認した」と述べた。弁護人は即日上告した。
 裁判員裁判の無罪判決を破棄し、高裁が自ら有罪判決を出したのは全国で初めて。29日には東京高裁の別の裁判長が、東京の放火事件で裁判員裁判の一部無罪を破棄し、東京地裁に差し戻している。
 安西被告は、2009年11月1日、覚醒剤約1キロをチョコレート缶に隠して、マレーシアから成田空港に持ち込んだ、として起訴された。被告側は「缶は土産として預かっただけで、中に覚醒剤が入っているとは知らなかった」と否認。昨年6月の一審判決は「違法薬物が缶に隠されていると知っていた、とまではいえない」と無罪にした。
 これに対して高裁判決は、被告が捜査段階で「見ず知らずの外国人に運ぶよう頼まれた」と説明していたのに、最終的に「知人から偽造パスポートの密輸を依頼されて渡航したマレーシアで、別の知人から土産として渡された」と変えるなど、何度も説明を変遷させていたことを重視。「うそが通用しなくなると供述を変えており、被告の供述は信用できない」と判断した。
 さらに、入国時の税関検査で白い結晶が発見された際、「これは何だと思うか」と質問された被告が「見た目から覚醒剤じゃねえの」と答えたことなども根拠に、「被告は預かった缶に違法薬物が入っていると認識していた」と結論づけた。(山本亮介)