脳脊髄液減少症その2

(続き)
 とはいえ、脳脊髄液減少症という呼称に含まれうるものがすべて因果関係のあやふやないかがわしいものとされるのも、処罰されるべき行為・結果が処罰されず、救済されるべき人が救済されないということになると思われる。
 例えば、次の例を考えてみてもらいたい。
 ある人が病院で治療をする際、医師が誤って器具で硬膜を傷つけてしまった。患者が激しい苦痛を訴えるので、画像をとったり検査をしたら、髄液の漏れている様子が確認できたので、漏れを塞ぐ手術をしたら、たちどころに患者の苦痛はなくなった。
 このような事例を、脳脊髄液減少症と呼ぶのかは知らないが、これは、さきほど見てきた因果関係に関わる論点を、概ねクリアしているのではないだろうか。一連の経過と回復の流れが明確で、その機序を裏付ける事情が見て取れる。
 このように、具体的な事情によって、因果関係の有無の判断は大きく変わるように思われる。

 脳脊髄液減少症というのは、昔の低髄圧症候群という概念を拡張させたもののようであるが、単に診断名に脳脊髄液減少症とついたからといって、その因果関係が肯定されるわけでなく、最後は、具体的な中身が問題になるのだろうと思われる。本件の判決は、脳脊髄液減少症という範疇に含まれるおよそ全てのものについて因果関係を否定したものでなく、今回の事件において、具体的に検討して刑事上の因果関係を認められない(合理的な疑いを超える程度の証明が無い)としたに過ぎないのだろう。

 結局、脳脊髄液減少症に関するいくつもの裁判例で、否定例が多いというのは、それだけ因果関係を肯定しにくい事例が事件として提起されているのではないかと思われる。確かに、肯定しにくい事例であれば、相手方も保険会社も経済的な負担をしてくれないし、警察なども動いてくれにくいわけだから、自然と、被害者は民事訴訟という裁判の場に紛争を持ち込むことになる(なお、今回は刑事事件だが、これも不起訴不当の検察審査会決議があり、公訴時効ぎりぎりで起訴された事案である)から、否定例が有力という現状は、自明の理ということになるのかもしれないが。

追記
 私は医療関係者で無いので、医学的に明らかに誤りがあるようでしたら、コメント頂ければ、適宜修正したいと思います。また、法律的な点ですが、事実・裁判所の判断・法律に関する事項は、引用した記事から推測しただけなので、その限度にとどまります。実はこんな事件なんだ、とご存知の方がいればこっそり教えていただければ幸いです。