韓国への牧歌的・前時代的な見方

 慰安婦問題に関する韓国での判決に、たまたま信濃毎日新聞で下記の社説を目にした。

 個人的な感想としては、これは、①国際慣習法たる主権免除の重みを理解していない、②2015年にした国家間の合意の重みを理解していない、③日本の軍・官憲による強制連行はなかったという歴史学の知見の重みを理解していない、としか思えない。

 信濃毎日新聞の記事について、ある人から「信濃毎日新聞の記事で精神的苦痛を被ったから謝罪と賠償をしてほしい」と言われて、第三者が「見解に大した差がないから現実を見据えて糸口を探ったらどうか、表現の自由報道の自由を振りかざすのはおかしいではないか」と言われたときに、信濃毎日新聞はやすやすと「そのとおりだ。被害を受けた人々が納得できる解決策を探ろう」と言うのだろうか。

 この社説は、韓国への牧歌的・前時代的な見方が前提にあるのではないかとかんぐってしまう。単なるメンツではない根本的な問題が内在していることをしっかりと受け止めてこそ、この判決に正しく対処できるのではないかと思う。

 

 記

慰安婦訴訟 現実見据えて糸口を探れ
2021/01/09 09:03 長野県 論説 社説
 引き返せなくなる前に関係修復の端緒をつかまねばならない。

 韓国の元従軍慰安婦の女性たちが日本政府に損害賠償を求めた訴訟の判決で、ソウル中央地裁は原告の請求を認めた。

 日本政府は、国家は外国の裁判権に服さないとされる国際法上の「主権免除」を盾に訴えを却下するよう主張していた。地裁は、反人道的な犯罪行為で主権免除は適用できないと指摘した。

 菅義偉政権は猛反発している。日韓関係がさらに冷え込みかねない情勢となった。

 慰安婦問題を巡り、安倍晋三前政権は2015年、当時の朴槿恵(パククネ)政権と「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した合意を結んだ。日本が10億円を拠出して元慰安婦らに現金が支給されたものの、被害者の一部は日本の謝罪を求めて受け取らずにきた。

 代わって政権に就いた革新の文在寅(ムンジェイン)大統領は「被害者と国民が排除された」との考えから、合意を白紙に戻す。韓国最高裁が日本企業に元徴用工への賠償を命じた際も「司法判断を尊重する」とし、解決に動かなかった。

 安倍前政権は、元慰安婦や元徴用工の補償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みと主張し続けた。通商分野で報復措置を取り、関係を悪化させている。

 菅政権も強硬路線を受け継ぐ。今回の判決を受け、加藤勝信官房長官は「国際法違反を是正するために適切な措置を講じることを強く求める」と繰り返した。

 外務省が「国際法的にも常識的にも、あり得ない判決だ」と息巻くほど、日韓の見解に隔たりがあるとは受け取れない。

 日本政府は、請求権放棄の条項は「外交保護権の放棄に過ぎず、個人の請求権は消滅しない」との立場を長く維持してきたからだ。最高裁も、個人の権利は失われていないと判示している。

 そもそも歴史認識から目をそらして国際法の問題にすり替えた上、韓国だけを責めたところで解決が見込めるはずもない。

 激化する米中対立のはざまにあって、日韓は互いに最も協力を必要としている。米中ロの軍拡や北朝鮮の核開発を抑え、アジアの秩序形成へ中堅国として声を合わせなくてはならない。

 菅政権も文政権も、世論の反発を警戒して“妥協”しづらい事情を抱える。メンツを優先して非難の応酬に陥れば、それこそ国益を損なう。実情を国民にも説きながら、被害を受けた人々が納得できる解決策を探るべきだ。