受け子無罪~不能犯、そして共謀罪~

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sonodahisashi/20160918-00062311/
園田寿  | 甲南大学法科大学院教授、弁護士
>2016年9月18日 10時8分配信
。■はじめに
>先日(9月12日)、福岡地裁でたいへん興味深い判決が言い渡されました。
>いわゆる振り込め詐欺の被害が深刻になっていますが、警察は被害者がだまされたふりをして、
>犯人をおびき寄せる「だまされたふり作戦」を発動し、犯人逮捕につなげています。この事件でも
>「だまされたふり作戦」が発動されたのですが、裁判所は、被害金を受け取る役目を依頼された
>「受け子」を無罪とした
【事実の概要】
>■平成27年2月下旬■ X(氏名不詳)は、被害者A(当時84歳)を「ロト6」に当選するなどと
> 言葉たくみにだました。
>■3月16日■ Xは、「ロト6」の当選に必要だとAに150万円を要求したところ、
> 心配になったAは東京に住む息子に相談し、息子から詐欺だと言われた。
■3月21日■ Aは、警察署に行き、相談したところ、警察が詐欺であることを確認し、
> Aも自分がだまされていることを認識した。そして、警察はAに対して、「犯人を捕まえるために、
> だまされたふりをしてほしい」と依頼し、Aも承知した。
>■3月24日午前10時半頃■ XがAに電話してきたので、Aはだまされたふりをして、
> 「何とか120万円は用意できた」と告げたところ、Xは、送付先の住所、宛名は「Y」、品名は「本」として、
> 現金を入れて宅配便で送るように伝えた。その後、Aは、箱に不要な本を詰め、現金は入れずに、
> 午後0時半頃、近所のコンビニから発送した。
>■3月25日午後1時頃■ 宅配便の配達員を装った警察官が、上記荷物をもって上記の住所に行き、
> 出てきた被告人に「Yさんですか?」と聞いたところ、「そうだ」と答え、荷物を受け取ったので、
> Yは、詐欺未遂の現行犯として逮捕された。

裁判所の判決理由は、要旨、3月21日は詐欺が既遂に達する客観的な危険性がなくなっており、
受け子はそれに関与したにすぎないから、処罰の根拠がなくなるという趣旨のようです。
コメントを書かれた園田寿教授は、本件では一般的な危険性があるとして、
警察官から弾の入っていない拳銃を奪ってその警察官に向けて撃った事件で殺人未遂になった判例
大麻の密輸で捜査機関がわざと郵送させた事案で輸入既遂にした判例をも挙げて
上記判決の見解に疑問を呈しています。

詳しく調べていませんが、直感的には論者の言う通りなのかな、と思いました。
ちなみに、この関係でウィキペディア不能犯を見たところ、
2016年2月に
> 典型例には迷信犯丑の刻参りなどの呪殺)があげられる。
>これは、従来の刑法学の通説的見解である(大塚仁刑法概説総論)。
>しかし、人を呪うことによって人が病気になったり、最悪の場合には、
>死に至ることが関係諸科学の知見により明らかになっており、
>刑法学は、立ち入らない正しき神霊の裁きに待つというのが学者クラスの通説的見解に変わっている。
>しかし、学生向けの基本書クラスでは、従来の見解が維持されている。
との修正が入れており、びっくりしました。誰でも修正できる辞書はおそろしいですね。

また、この事件で思ったのが、共謀罪です。
>「共謀罪」とは、2人以上の者が、犯罪を行うことを話し合って合意することを処罰対象とする犯罪のことです。
仮に共謀罪が制定されていた場合には、上記判決が詐欺を否定したとしても、
この共謀罪によって処罰をすることが可能かと思われました。
上記判決の立場を首肯しつつ、処罰の間隙には違和感を覚える向きの人にとっては
このような立法が検討されているということも頭の片隅に入れておくと良いかもしれません。