書籍『中国化する日本』の感想

書籍のタイトルは非常に刺激的ですが、若手研究者(32歳、准教授、日本近代史)が
まじめに、日本の歴史に関して、最近の研究の成果に依拠して書かれた本でした。

この本では、「中国化」を「日本社会のあり方が中国社会のあり方に似てくること」、
その「中国社会」とは、近世(初期近代)を迎えた宋で導入された社会と規定しています。
現在のグローバル化の先駆けとして宋代を評価し、その本質を
「可能な限り固定した集団を作らず、資本や人員の流動性を最大限に高める一方で、普遍主義的な理念に則った政治の道徳化と、行政権力の一元化によって、システムの暴走をコントロールしようとする社会」
だとします。
その具体的なチェックポイントとして、
A 権威と権力の一致
B 政治と道徳の一本化
C 地位の一貫性の上昇
D 市場ベースの秩序の流動化(貨幣経済
E 人間関係のネットワーク化(宗族関係)
を上げます。

日本はこの宋代と異なる道を歩んでおり(A~Eまで、日本にはあまり当てはまらない)
なぜそうなっていったのかを考えることを、話の中軸に据えて、
世界史を含めた様々な歴史的事象について、
(少なくとも私のように大分前に高校までの歴史教育を終えた人間にとっては)
新たな意味付けでの解説をしてくれるものです。
 
本書では、テーマに関わる大きな問いかけとして、
1 なぜヨーロッパのような「後進地域」が、宋朝中国という「先進国」を奇跡的に逆転して産業革命を起こせたか?

2 近代には西洋が中国を凌駕するという、異常な事態が生じたのはどうしてであり、いかにしてそのような、例外的な時代は終焉を迎えたか?

3 なぜ、「近代化」も「西洋化」もちっとも捗っていないはずだったあの国が、妙に最近また大国らしき座に返り咲いているのか?

4 どうして歴史上ほぼ常に先進国であったはずの中国で、人権意識や議会政治だけはいつまでも育たないのか?
非常に興味深い角度からの問いかけと、それに対する一定の答えを述べ(詳細は本書をお読みください)、
また、個別的な問いかけとしても、例えば「どうして古代日本は科挙を導入しなかったのか?」、「織田信長のライバルは誰(どこ)?」など、興味をそそられるものがありました(織田信長のライバルに武田信玄を挙げたとしたら、「D」(落第)だそうです、「A」となるのは何か、是非考えて、それから本書を読んでみてください)。

 以上のとおり、本書で上がっている大小の問いかけもとても刺激的で興味をそそられると思います。

 本書は、かなり砕けた表現で、分かりやすく解説されており、とても興味深く面白い、というのが一言でいう読了後の感想でした。何かと、善悪・優劣という指標で国家のあり方や歴史を比較しがちな現代社会(というか某掲示板その他のネット社会)において、歴史を学び、未来に向けて考えるという姿勢を改めて考えさせてくれたという点でも良い書籍だったと思います。

 まあ、「中国化」と「再江戸化」という対比によって日本の歴史的事象を分かりやすく解説するため、
逆に言えばやや単純化されすぎている部分もあったように感じましたが、とっかかりの本と考えればそれもやむを得ないかなと思います。