【民法】土地の液状化と販売業者の賠償責任 続きbb

第2 検討1(瑕疵担保責任
 土地の液状化というとまず思い付くのが、瑕疵担保責任(民法570・566条)です。
 (売買契約上の規定が条文に優先しますが、契約ではどのように規定されているか分かりませんので
 条文の範囲で考えます)
 民法570条では、売主の故意・過失ではなく、①問題が「瑕疵」にあたるのか、②瑕疵が「隠れた」ものであるか、③瑕疵を知ったときから一年以内に(裁判上・裁判外を問わず)請求したかが問題となります。

 ①の点については、土壌の液状化のように建物が立っていられる安全性を当該土地が有しているか否かは、土地の「瑕疵」に該当すると解するのが相当と思われます。
 ②の点については、本件では、購入時に買主が液状化する危険性を認識しつつ買ったことは当然ないでしょうし、一般の購入者ですから、土壌の安全性に関する調査を怠ったと批難されるべきこともないと思われます。
 ③の点によれば、液状化する土地だと知ったときから1年以内に請求することになりますが、本件は、東日本大震災により現実化したものであり、そこから1年経たずに訴えを提起したのは明らかですので、この点も問題ありません。

 そうだとすると、本件においては、民法570条の要件は満たしそうですが、果たして原告の請求は認められるといっていいのでしょうか。実は、さらに消滅時効という問題があります。
 瑕疵担保に関する条文では明確になっていません(566条3項は、知ったときから1年とは定めていますが、いつまでに知った場合に請求可能なのかを規定していません)が、最高裁判決によれば、「瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。」(最高裁判決平成13年11月27日http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120610147637.pdf)とされています。
 したがって、土地の買主は、その引渡しを受けた時から10年までしか、瑕疵担保による損害賠償請求権を行使できないということになります。本件では、1980年代に引渡しを受けたとのことなので、10年は優に経過しており、瑕疵担保責任の追及は難しそうということになります。
 
第3 検討2(不法行為責任)
 また、記事によれば、不法行為責任を根拠としての請求もしているようです。
 不法行為は、①「故意または過失によって」、②「他人の権利または法律上保護される利益を侵害した」者が、③「これによって」、④「生じた損害」を賠償する制度です。なお、本件がそもそも土地売買における瑕疵の問題なので、不法行為責任ではなく瑕疵担保責任の追及しかできないのではないか、という主張も考えられますが、要件効果が異なりますので、どちらで請求しても良いと解するのが相当かと思います。
 (参照)
 町が分譲した宅地上に建物を建築した会社らが,本件宅地の地盤沈下により建物に被害を受けたとして,不法行為に基づく損害賠償を求め,原審は,一部認容の判決をした。町は,本件地盤沈下の原因について原審の重大な事実誤認があるなどと主張したが,本件各土地には宅地としての基本的な安全性に欠ける瑕疵があるなどとして,控訴を棄却した事案(平成22年10月29日仙台高等裁判所判決)で、瑕疵担保責任を負うことはあっても不法行為責任を負うことはないとの町側の主張を排斥した例があります。
 要件を概略見ますと、
 ①については、本件で、不動産業者側に故意はないと思う(信じたい)のですが、過失があったかは不明確です。近辺には無事だった土地もあり、そこは補強工事を入念にやったようなので、補強をしなかったことについて過失があったと考える余地もあるのかもしれません。
 ②では、所有する土地の安全性それ自体は、保護されるべき権利・利益といえるかと思います。
 ③については、土地の補強がなくてもこの地震によって壊れたと判断されれば、補強しなかったことと土地の液状化との間の因果関係はありませんので、損害を賠償する責任は生じません。ただ、①で触れたところ、近場には無事だった土地もあるようなので、補強をしなかったことと液状化との因果関係を肯定することも可能なのかもしれません。
 ④については、危険な土地には住めませんので、土地の補強費用、建物の修繕費用あるいは移転費用などの損害が出ている可能性がありますし、精神的苦痛を被っているといえそうなので一定額の慰謝料の余地もあります。
 
 以上のとおりですので、事案の内容次第ですが、要件を満たす余地はありそうです。
 では、請求はそのまま認められるでしょうか。ここでも、やはり消滅時効が問題となって来ます。
 不法行為では、民法724条により、「請求権は、被害者」が、「損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」とされ、「不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする」とされています。
 既にみたように、液状化が起きたのは東日本大震災のときですから、知った時から3年間以内というのはクリアしていると思いますが、他方、本件の売買・引渡しは1980年代あたりらしいですので不法行為の時から20年以内というのは経過してしまっているように思われます。
 
第4 まとめ
 以上みたように、記事を読んだ限りでは、瑕疵担保責任不法行為責任ともに、時効の壁に阻まれて責任追及は難しそうというのが第一感です。もっとも、時効も絶対的なものではなく、時効を中断したり、成立を妨げる事情等がある場合には、消滅しない場合もあります。
 本件では、その辺りの事情はあまり触れられていませんので、その点に関する事情がどんなものかで、時効に関する判断も動く余地があるかもしれません(除斥期間の適用の例外とするなど)。