少年法・交通犯罪における法改正の動き

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120907-00000091-mai-soci毎日新聞
>滝実法相は7日、自動車の無謀運転事故に対する罰則の整備と、
>少年法の見直しを法制審議会に諮問した。

ということで、まず自動車の運転事故に関してみると

> 無謀運転の罰則整備は
>(1)飲酒か薬物の影響(2)ハンドル操作が困難な高速度(3)人や他の車の通行を妨害する割り込み(4)高速での意図的な信号無視--の4類型に限られた危険運転致死傷罪(最高刑・懲役20年)に新しい類型を加える
>▽自動車運転過失致死傷罪(同7年)の法定刑を引き上げる
>▽両罪の間に位置する新しい罪名を設ける--の3案がある。

> 「交通事故被害者家族ネットワーク」の児玉正弘理事長(65)は
>「あまりにひどい事故が相次いでいる。無免許も含め悪質なケースは、
>全て一番重い危険運転致死傷罪が適用されるようにすべきだ」と話す。

> 一方、交通問題に詳しい高山俊吉弁護士(東京弁護士会)は
>「無謀運転は許されないが、厳罰化を繰り返しても根本的な解決にならない。
>飲酒や無免許ではエンジンがかからない車を普及させるなど、
>より実効性のある対策を取るべきだ」と指摘した。

 ここでいう無謀運転が具体的にどういう例をいうのかというと

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120907-00000155-jij-soci時事通信
>滝実法相は冒頭、「無免許運転や飲酒運転など悪質危険な交通死傷事案が社会問題となっているが、
>罰則や法定刑が国民の意識に合致しているのかと指摘がある」と述べ、
>早期に結論を出すよう要請した。

どうやら、「無免許運転者」や「(危険運転に該当しない)飲酒運転者」による「交通死傷事故」が念頭に置かれているようです。

 では、これらを危険運転致死傷罪の一類型にするというのはどうでしょう。
 危険運転致死傷罪は、容易に分かる通り、基本行為(「ハンドル操作が困難な高速度」など)が生命身体に対する危険性を高めることが明らかな類型に限られています。暴行類似といえるものもあります。だからこそ、致死の部分について故意がなくても傷害致死(暴行→傷害→傷害致死という二段の結果的加重犯である)に匹敵するような量刑が定められていると考えることができます。

 無免許運転の場合、教習所に通ったことがないものから、速度違反等の行政処分を重ねて無事故のまま免許停止・取消になったもの、免許更新を忘れたが再度の取得を怠ったものまで様々な類型があります。そうすると、無免許には幅があって、交通の危険性を高めるとはいえない部分もあるわけです。であるならば、危険運転致死傷にそのまま含ませるのは困難があると思います。

 次に飲酒運転の場合はどうかというと、一般的には飲酒は認知、判断、操作の各過程での俊敏さや的確さを損なうものではあります。現在の飲酒運転の場合も、500mlの缶ビール1本あたりで違反になる程度の高さであり、ほんの一口飲んだだけ、という例を排除していること(二日酔いのように酒が十分抜けないケースはさておき)から、ある程度危険性を高めるものが包含されているといえるでしょう。とはいえ、これも、危険運転致死傷の基本行為ほどには危険性が高いものだけとはいえません。

 したがって、検討される二類型とも、危険運転と同格のものとすべきではないと個人的には思います。

 次に、自動車運転過失致死傷の上限(7年)の引揚げですが、裁量に委ねる幅を広げ過ぎることには、罪刑法定主義の形骸化、事件間での平等性を損ないやすい、結果の重大性を強調して過失犯の処罰をどんどん重くして良いのかなどの一般論的な問題があります。さらに、日本でも非専門家である裁判員制度が実施されており、現時点では対象外ですが、将来はどうなるか分からないですし、裁判員事件と併合されて裁判員裁判になることもありえます。そうなると上記弊害が大きく出かねないことになります。
 また、そもそも、行政法規違反にも刑罰が科せられており、それとの併合罪(両罪の法定刑の上限を足したものか高い刑の上限の1.5倍のどちらか低い方が上限となる)で対応すれば本来良いとも考えられるわけです。
 そういうわけで、自動車運転過失致死傷の上限(7年)の引揚げにも疑問があります。

 では、準危険運転致死傷罪の制定ですが、これは内容次第だと思います。
 一定の危険性を内包する類型を抽出してこれを処罰するというのであれば許容できると思います。
 他方、行政法規違反という、反法的態度を有していることをもって大幅に処罰の上限をあげるというのは疑問です。行為(・結果)に対する処罰という基本から外れてしまいかねないからです。後者の発想で処罰を図るなら、元の行政法規違反の上限を上げるのが本則だと思います。その引き上げがダメだとなれば、それは相当でない処罰を求めている、ということで理解すべきだろうと思います。

 ということで、今後の交通事故処罰の法改正を見守って行きたいです。それにしても、政治の人気とりみたいな理由で法改正が進むのは、時には良いですが、時には悪い結果を生むようにも思うので、どうなるか心配ですね。