施設送致申請について(雑考メモ)

たまには専門的な話題でも。
 
 施設送致申請は、少年法26条の4(更生保護法67条1項〔警告〕2項〔申請〕)に規定されており、平成19年改正で導入された新制度です。
 保護観察を受けている少年が
 ①警告を受けたにもかかわらず、なお遵守すべき事項を遵守しなかつたと認められる事由があり、
 ②その程度が重く
 ③保護観察によって改善更生を図ることができないと認めるとき
には、その少年を少年院・児童自立支援施設児童養護施設に送致するというものです。
 
 この制度の趣旨は、保護観察に応じなければ最終的に少年院等に送られるという形にすることで、保護観察(社会内で少年の改善更生を図るため、保護観察官・保護司の指導等を受ける制度)の実効性を担保するためとされています。
 
 この制度については、その要件解釈、判断基準等につきまだ固まっていないところがあるように思えます。
 この点、その趣旨を大まかにいって、虞犯を含む3条にひきつけて考えるか、収容継続・戻し収容のような準少年保護事件にひきつけて考えるかで相当な差異がでるように思われます。
 極論にたてば、
 前者では、非行事実(非行性)+要保護性を必須とし、処分を行うか否かという形式をとる一方で、
 後者では、①②は申請開始事由にすぎず、あくまで保護観察で指導できないという実質が満たされればよく、形式上は申請認容(*施設の指定が必要なので実際には○○送致ですが)か申請棄却かという判断になる
 ことかと思います。
 二重処罰がどうとかも一応このあたりの議論にはなるのでしょう。
 
 実際の検討としては、少年法が犯罪少年(+ぐ犯少年)の改善更生を図るもので、純粋な要扶助・要保護少年に対する福祉を担うものではない以上、まったく累非行性を考慮外としてしまうことには問題があります。
 しかし、他方で、ぐ犯通告制度とは異なり、新しく導入された制度であること、動向を掴めない保護観察少年については問題性を外部から指摘するのは難しいことなどを考慮すると、ぐ犯と同等のところまでそれが要求されるかはなお検討の余地があるかと思います。
 
 さらに、累非行性を問題とする場合、文言上①~③の要件に織り込みづらいとして独自の要件とするのか、織り込むとした場合には②の重大性にするか、それとも③の保護観察不適にするか、あるいは両方に影響するのかという点も問題となります。
 解説などを見ると③を要保護性の要件とした上で、ここに取り込むようですが、文言上取り込みにくいとして、非行に至らない違反であるから、重大でない(②)とする考え方もあります。
 
 ただ、②とした場合、これは申請の要件でもありますから、保護観察が暗礁に乗り上げる典型例の一つである、保護観察官・保護司と一切接触せず、連絡先も分からず、保護観察所にとって消息不明になってしまうという場合には、申請できず、その後の観護措置等につなげられないということになりそうです。
 この弊害を避けるため、申請時点では重大性ありといえるが、以降の手続で判明した事実によれば重大性はないと判断時点をその都度考えるものとなりますが、どの程度の事実が判明すると重大性が失われるのかという点で、少年側に立証の負担が生じることになりますが、これはやむを得ないことのか、また、事後に重大性がないといえれば放免されるとなれば、違反に対する抑止力が損なわれるということも考えられます。制度趣旨が保護観察の実効性担保ということからすれば、この点をあまり軽く捉えてしまうのも問題があることでしょう。
 
 この点、遵守事項違反の種類、性質等によって、考慮の仕方を変える方向性もあるかもしれませんが、あまりに便宜的すぎて妥当ではないと思われます。
 
 ともかく、施設送致申請制度は、公刊された裁判例が、現時点で認容3件のみで、棄却例はありません。
 この辺の情報が出てくれば、さらにいろいろな検討や分析が進むものと思われます。
 制度の運用としては、保護観察に引き戻すための手段という扱いで、申請して棄却されても、脅しになっていれば十分という方法もあると思われます。そうなると、結構な申請数が計上され、棄却率がそれなりに高くなるという統計になってくるかもしれません。逆に伝家の宝刀と考えれば、申請数は少なめで、棄却率は低いという統計になってくるでしょう。
 直感的には前者よりの運用の方が今後ありそうな気がしています。
 
 雑文ですが、こんなところで。
 
PS少年補償については要件③で棄却された場合には生じないが、要件②で棄却された場合には検討が必要になると思われます。(要件①なしの申請は通常ありえないし、観護措置が認められないので考慮外)