台湾史

NHKの特集の感想 http://blogs.yahoo.co.jp/nekonomanma/58973311.html#59046561 に
本を読もうとコメントをいただいており、
それもあって、最近、偶然触れることができた台湾の学者が書かれた一般向け書籍を読みました。
『図説 台湾の歴史』(周婉窈 著 濱島敦俊 監訳 石川豪・中西美貴 訳 平凡社)です。
監訳者の後書きによれば、本書は台湾で9万部近く売れているもので、
「本書のような学術的な本としては台湾で最も多く売れ、そして読まれた本ということになるそう」です。

その章立ては、本編として
先史時代、先住民とオーストロネシア語族美麗島の出現(東インド会社の進出)、漢人の故郷と移民開墾社会(鄭成功によるオランダ人撃退と清朝支配)、漢人と先住民の関係(漢人が台湾の中で開拓地を広げて行く様子)、日本統治時代ー天子が代わった、二大抗日事件、植民地化と近代化、戦争下の台湾。
(*括弧書きは私の註になります)
戦後編として、
ポストコロニアルの泥沼、二・二八事件、「白色テロ」の時代、党国教育、民主化運動。

 各章の分量が多いわけではないので、要点的なところになりますが、台湾の民族的出自というか、文化的な変遷の複雑さは良く分かりました。
 外来の文化の流入は、当初は、台湾全体に広がるのではなく部分的で、例えば、東インド会社がきたから全島がオランダ化したわけではないとかですね。歴史的な共通性・統一性が全島にあった期間が短い、かつ複数の文化・思想により分断されているというのが台湾の歴史なんだろうなあと思いました。
 全般的にいろいろ勉強になりましたし、特に、現代台湾の層構造が、大雑把に、中国にルーツがあり反日的な外省人、日本統治下での教育を受けていた本省人、それらの世代の子供で外省人的な視点からの教育を受けた世代と分けられ、それが複雑に絡み合っているという様子について表現されており面白かったですね。

 結局台湾には、長期にわたる共通した歴史的土台がないから、物の考え方や基盤が複雑化しているようで、その中において、民族アイデンティティーをどこに見出し、掴まえていくのかと考えると難しいですね。その地域に対する愛情(郷土愛)みたいなものでないとまとまれないのでしょうか。などとも思いました。
 他方、日本だと、統一政権が長く続いたわけで、卑弥呼がどこの人かは分からなくても、「日本の歴史」の人物として扱われるのは、現在の領土の話だからというだけでなく、教育により学習し感覚として吸収してきたことで、「日本性」というものが形になっているのかもしれないなあ、と思いました。


 ところで、日清戦争により台湾が割譲された際の話では、日本の歴史では割譲されたとしか扱われないところですが、実際には、かなり抗日運動・抵抗があって、それを排除するための戦闘があったということが知れてよかったです。日本からすれば、未開を文明化してやるのに、守旧にしがみついていただけと見ることもできるのでしょうが、著者がこの抵抗運動に、民族精神の根源をみてその戦いについて熱く語っているのを読んで、感心しました。入っていく側と受け入れる側の意識の違いというのは、なかなか埋められないものなのでしょうね。

 また、日本降服後の国民党の進出に対して、二・二八事件という非常に大規模な反抗があって、これに対して虐殺し、その後は長期に(1987年まで)戒厳令が継続していたというのを知ってびっくりしました。日本が、敗戦後に早期に民主主義国家としての再スタートを切ったことを考えると、戦後における双方のあゆみは、西側諸国とくくった近隣地域であるのに、政治的・文化的に大きく異なっているのでしょう。
 この二・二八事件ですが、原因としてヾ盈修良綰圈米鐱榲?2爾寮粁?蘿鬚気搬腓く違う)、急激な中国語化と旧日本統治下での教育等を受けたものの排除、J資の専売制などの圧政により起きたと上がっていました。先の台湾割譲に際して、日本と台湾(共和国や一般民衆)との交戦に比べると、思想とかそういったものではなく、生活それ自体を悪化させるという圧政にあった点で大きく違うというか、統治の質の低さを感じたりしました。公務員が、賄賂をとらず、清廉潔白であるということは、優れた統治の基礎となる重要な要素であるということを改めて実感しました。

最後に、何となく気になったところを挙げますと、著者が台湾を「小島」と表現することがあったことでしょうか。日本からしてみれば大きな島だと思うのですが、近くに大きな大陸があると、そういう表現になるのでしょうね。相手の大きさをもろに受ける場所にいることの大変さがなんとなく伝わってくるような気がしました。