【韓国】名誉毀損被告事件におけるネット掲示板での反応の事実的意味

1 名誉棄損被告事件で、ネット掲示板の書き込み(反応)を裁判資料として提出した
 という事件のニュースに接したので、その意味合いを少々考えてみることにした。

2 とりあえずの事実関係は、下記を参照する。

http://www.sankei.com/world/news/150727/wor1507270031-n1.html
>2015.7.27 19:12
>韓国検察、2ちゃんねるの書き込みを証拠として提出 記事は「大統領の名誉を傷つける意図」

>【ソウル=藤本欣也】朴槿恵大統領への名誉毀損で加藤達也前ソウル支局長を在宅起訴したソウル中央地検が、
>問題とされた加藤前支局長のコラム「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」に対し、
>インターネット掲示板2ちゃんねる」などに寄せられた過激な書き込みを集めて
>ソウル中央地裁に意見書として提出していたことが、27日の公判で明らかにされた。

> 李東根(イ・ドングン)裁判長は法廷で「低俗な内容なので言及しない方がいい」と述べ、
>書き込みについて公開しなかったが、関係者によると、「整形のメンテにでも行ってたんじゃないの」
>「女なんだからデートもするでしょう」など、朴大統領を中傷するような内容がほとんどだという。

> 検察側はこの日の公判で、意見書を基に「(加藤前支局長のコラムに対する)
>日本国民の主な反応は男女関係にあったことが確認できた」とし、「コラムは公共の利益のために書かれた」
>という弁護側の主張を否定する証拠になると強調した。

> これに対し、弁護側は「メディアでもないサイトに寄せられた匿名の意見」であり、
>「偏った極端な一部の考え」であると反論。「こうしたコメントが果たして日本国民の意見だとみなすことができるのか、
>非常に疑わしい」「これらのコメントを、加藤前支局長のコラムに対する日本国民の反応だといえる
>検察の勇気がうらやましい」などと批判した。

> 韓国の司法関係者は検察側の意見書について、「無理な見解であり、出さない方がよかった。
>加藤前支局長を有罪にしようという焦りが感じられる」と指摘している。

3 「意見書」の位置づけ
 日本刑法なら「公共性」、「公益性」、「真実性」は名誉毀損の違法性阻却事由の要件をなすものであって
証拠手続上、「厳格な証明」(=証拠能力を有し、かつ、刑訴法の適式な証拠調べを経た証拠に基づく証明)によるのであり
意見書のような自由な提出方法によることはないと思われる。
 その意味で、韓国では、意見書として裁判所に認識させているように思われるこの手続が
どのような位置づけになっているかはいまいちよくわからない。
自由な証明が許されるだけで証拠なのか、刑訴手続上の意見を述べる際の参考資料なのか。
ともかく、それを双方が根拠にして主張をしているので、証拠的な形で扱われているのはそうなのだろう。

4 ネット掲示板の反応という間接事実
 被告人が書き込んだものならいざしらず、不特定多数でかなり偏った人間が書くかもしれないネット掲示板の反応が
あるからといって、それを根拠に被告人の内心を推測するというのは相当に強引なもののように思われる。
少なくともこの意見書に関しては、多数の日本国民がもつ感想であるといえるのだろうか、さらに
日本国民がその感想を持つであろうとの推量を被告人がしながらコラム記事を書いたといえるのだろうかと思った。
弁護側の主張は前者についての話だがやはりそういった疑問を呈するのは当然のことかなと思われた。