【再生】小規模個人再生申立書の審査(計画弁済総額の最低ライン)

<計画弁済総額・最低弁済額>
 
1 はじめに
前回、再生の申立てということで、開始決定を受けるための審査にあたって必要な要件を書きました。
時系列順では、開始決定→再生計画案作成→付議決定→認可決定の流れになりますが、
③再生計画案の作成・可決・認可の見込みがないことが明らかなときでないことも
開始決定の実質的な要件であるため、再生計画案の作成に欠かせない要件についても
開始決定段階で予め審査をうけることになります。 
 
小規模個人再生では、再生計画案における計画弁済総額の最低ラインを決めるものとして、①基準債権から導き出される最低弁済額(231条2項3,4号)と②保有財産等から導き出される清算価値(231条1項・174条2項4号)の2つがあります。そこで、今回は、①最低弁済額の算出方法等をみていきたいと思います。
 
2 最低弁済額について
(1) 最低弁済額の算出方法
 基準債権額が100万円以下の場合:その額
 基準債権額が500万円以下の場合:100万円
 基準債権額が500万円以上1500万円の場合:総額の5分の1
 基準債権額が1500万円以上3000万円以下の場合:300万円
 基準債権額が3000万円以上5000万円以下の場合:総額の10分の1
 
(2) 基準債権とは
 基準債権は、再生債権のうち、「住宅資金貸付債権」(再生計画において全額弁済する住宅ローン)、「別除権の行使によって弁済が見込まれる額」(実行未了の抵当権・譲渡担保権などの担保権付きの再生債権がある場合)、「84条2項の請求権」(劣後的な債権で、全額免除されるのが通例)が、いずれも含まれません。
 また、「再生債権」の総額ですので、共益債権(119条以下)、一般優先債権(122条)、開始後債権(123条)は、基準債権に含まれません。(*ただし、これらは履行可能性という別の場面で考慮する必要があります)
 
(3) 存否や額に争いのある債権について (ただし、住宅資金特別条項関連は、特別の扱いがされています)
 手続内での債権額を確定させる手続の流れは、開始決定→債権届出→異議→評価申立て→評価決定、です。
 
 申立人(再生債務者)は債権者一覧表を提出することになっており(221条3項)、債権届出期間内に再生債権者から届出がなければ、その債権者一覧表に記載された額での届出があったと見なされます(225条)。もちろん再生債権者からの届出があればそちらになりますが。
 再生債務者・届出再生債権者は、届出された債権の額(存否を含む)について、一般異議申述期間に異議を述べることができます(226条)。有名義であれば異議者が、そうでなければ異議を出された再生債務者から、評価の申立てをし、裁判所が決定を出します(227条)。
 
 以上のようにして定まった基準債権額を元に最終的な最低弁済額を算出することになります。
 
(4) 申立て段階の審査
 申立て段階では、元金だけの記載だったり、0~数ヶ月前の債権調査票(書類を出して債権者から、把握している債権の状態を送ってもらう)をもとにした記載だったり、争いがあるが載せるというものだったりするので、正確な最低弁済額①は出てきません。
 その後、開始決定前日までの遅延損害金分の増加があったり、上記の異議・評価申立てなどにより(債務者対債権者だけでなく、債権者対債権者もありえる)減少したりということがあるわけです。
 申立て段階では、個々の債権の調査状況・正確性等について、検討されはしますが、全体としての最低弁済額①は概算で、履行可能性の判断も、大きな金額の変化がある場合には、蓋を開けてみなければ分からないというところもあるようです。
 
**次回は清算価値その他、次々回は、住宅確保という個人再生の主眼ともいうべき制度である住宅資金特別条項の要件を詳述したいと思います。
 
(*)当初「最低弁済額」という表現を、再生計画案において、法律上最低限必要とされる弁済額をさして用いましたが、多少文献を見直したところ、そのような使い方は誤りであり、231条の基準債権額から導き出される額を最低弁済額と呼ぶのが正しいようですので、訂正いたしました。