『「医師逮捕は不当」病院が抗議文』について

>「医師逮捕は不当」病院が抗議文-警視庁に釈放など要望
>医療介護CBニュース 8月26日(金)18時1分配信
> 東京都足立区の柳原病院は25日、非常勤で働く医師が準強制わいせつの疑いで
>警視庁に逮捕されたことを受け、釈放などを求める抗議文をホームページ上で公表した。
>抗議文では、「全身麻酔手術後患者の訴えのみを根拠とする不当な逮捕」と強く抗議している。【ただ正芳】
> 警視庁によると、逮捕された非常勤医師(40)は今年5月、手術を受け麻酔からさめたばかりの
>30歳代の女性患者に対し、診察を装いわいせつな行為をした疑いが持たれている。
>逮捕された医師は容疑を否認している。
> 一方、柳原病院では、女性患者に関係した職員らに対する聞き取り調査や現場検証などを実施。
>女性患者の供述については、「全身麻酔による手術後35分以内のことであり、その内容は、
>手術前の恐怖や不安と全身麻酔で行った手術後せん妄状態での幻覚や錯覚が織り交ざったものと
>確信する」とした。さらに、わいせつ行為があったとされる時、女性患者は4人の患者と同じ部屋にいた上、
>部屋には経過観察のため看護師が頻繁に訪れていたという。
> これらを踏まえ柳原病院では、「多くの目がある環境の中で供述の様な事が誰にも知られずに
>行われたとは考えられない」と結論付けた上で、警察当局に対し、謝罪と捜査の中止、
>逮捕された医師の釈放を求めている。

医療に関係して医師を逮捕するというのは、今回は医療行為そのものを問題としているわけではないが、
それでも、社会的な耳目を集めるような性質の事案である。
それゆえにその身柄拘束についても見通しをもって慎重に行われるべきだと思う。

上記事件の真実はさておき、
被害の訴えに対して適切に捜査を行うのは容易くないということを
改めて感じさせる出来事である。

捜査機関側から見ると、病院における医師の立場は強力であって、病院内で起きた事件・問題について
医師を自由な立場においたままで、関係者・参考人取調べを実施したとしても十分な成果が上がらない
(何らかの口裏合わせ、医師への迎合等が行われる危険)を考えてしまうのだろう。
他方、医療機関は心身ともに疲弊した患者が訪れる場所であって、その際の事件では患者の供述の
信用性の判断には慎重な検討を要すると思われる。

今回のケースで思うのは、捜査機関側としては、逮捕に先立ち、全身麻酔状態後の患者にはどのような
精神状態が現れ、その供述の信用性はどうなのかについて、他の専門的な医師に
きちんと確認したのかどうかが気になる。
病院側の話す「せん妄」という問題が意識されていなかったのであれば、
慎重な任意捜査の積み重ねが重要であったとの指摘がなされるように思われる。
その一環として、客観的な資料として、患者自身の請求等を通じてカルテの開示、交付を受けてその検討をする
といったことも考えられるが、患者側が負担を訴えたことなどから、被害者の尊重擁護の観点が邪魔をして
適切な資料収集や分析ができなかったとしたら、悪しき被害者尊重ということになるかもしれない。

被害者の心情に配慮した接遇が昨今大変重視されており、その方向性自体は進めていくべき事柄であろうが、
他方、捜査を進めてみないと、「被害者」と「被害を訴えている人」が一致するのか、「被害があったのか」は
判明しないのであり、「加害者」とされる側の負担のことも決しておざなりにしてはならないと思う。

今回、病院が、逮捕後間もなく、自発的に調査を実施し、被疑事実を否定する発表をしたことは
被疑者に関する風評被害を最小限にするものと評価することができるように思う。
一方で、当該医師と病院の経営者・管理者との間に特別な利害関係があった場合などを想定すると
調査と称する口裏合わせが行われたのではないか、との疑念を、少なくとも捜査機関がもってしまうのも
あり得るように思える。

医師を逮捕せずに任意に捜査を進める中で、医師の影響力を排除しつつ、
適切に事情聴取を進める方法がないのか、
三者から見ても中立性や公平性が担保されており、疑念をさしはさまない自主調査の形式があったのか
については、「被疑者の負担軽減」と「事案の真相解明」という2つの価値の適切な実現という見地から
検討がなされたら幸いであろうと思う。