精神系書籍2つ

「ぼくは物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯」

てんかん治療として外科手術によって物理的に脳の一部である海馬(左右両方)を切除したHM氏、
その生涯と彼を通じた記憶メカニズム等に関する研究を紹介した作品である。

第1章の精神外科分野における実験的な脳切除の話題には厳しく言えばあまりにも実験的過ぎて
無謀にも思える話があって、リスクとメリットを天秤にかけてさっと実行してしまうところが
ある意味フロンティア精神なのかと思う。そんな結構背筋の寒くなる話題だった。

その後の主人公HM氏の話はとてもかわいそうな人の話だが、一方で大変に脳・記憶のメカニズムを解き明かすのに
貢献しているのが、様々な実験についての分かりやすい解説を通じて知ることができた。

さらに、HM氏は前向性健忘であってほとんど新しい記憶を獲得できないが、
本人の生来的な穏やかで紳士的な性格に加え、
ある種の記憶部分によって周囲にいる新しい人々に対して既知感を抱いて生活することができた
ということが説明されるので、HM氏の生涯が完全に朝目が覚めた時から未知に怯えるものということには
なかったと推測することができ、救われる思いになれた。

記憶は、短期記憶・長期記憶、陳述記憶・非陳述記憶、
意味記憶エピソード記憶というように様々に分類され、
それらの集合体によって全体としての記憶力というものがあるように思われた。
その点を意識すると、ある人について、単に記憶力が良い・悪い、というのでは不正確であって、
より細分化され、●●記憶(その背景にあるメカニズム)が良い・悪いということになる
ように思われた点も興味深かった。


「視覚はよみがえる」スーザン・バリー

こちらは斜視の人が、幼少期に健常視の人と違って立体視を習得できず、
(斜視は治したものの)年齢を重ねた後、十分な訓練を行い、立体視の能力を習得したという話である。
・斜視の修正、・幼少期の立体視経験(?)、・適切な訓練といった要素があいまって
立体視という素晴らしい能力を獲得したという話である。

人間の物の見方(視力的に)に対する理解が深まると共に、
脳の機能回復力の高さに感心させられた作品であった。


2つの書籍を読んで思うのが、物理的に損傷・切除されてしまった機能は回復するのが困難なようだが、
生来的な訓練不足などによって能力を取得しなかった場合には適正な訓練等を真摯に受けることによって
脳が活性化してそのような能力を獲得するに至るのだろうと思えた。
その意味では、脳は、後者の場合には可塑性があるものであって
回復の可能性があるのであれば容易に諦めない方がいいのかもしれないと思わされた。



(関連myリンク)http://blogs.yahoo.co.jp/nekonomanma/65323065.html
(関連myリンク)http://blogs.yahoo.co.jp/nekonomanma/65405397.html