【憲法】国家公務員の労働基本権制約と給与削減

 国家公務員の給料削減7.8%(うち、人事院勧告分0.23%は昨年に遡って実施)について
与野党3党の合意がされたとのニュースが流れました。
  など
 
 人事院勧告に基づかない削減ということで、憲法違反等の主張をする団体もあるようです。
それというのも、国家公務員の労働基本権が制約されていることについて
昭和47年の最高裁判所(いわゆる全農林警職法違反事件)判決が合憲と判断した理由として、
「法律により公務員の主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか
適切な代償措置が講じられているから、争議行為等を禁止するのは」憲法28条に違反しない
としているからです。
 その後、一時人事院勧告が実施されなかった時期がありましたが
これについても、平成12年の最高裁判決によれば、
「本件ストライキの当時、国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置が
その本来の機能を果たしていなかったということができない」との事実認定に立ち、
当該公務員に対する懲戒処分は違法でないとされました。
 
 そうすると、今回の立法は、人事院勧告にはない大幅な減額措置になるため、
代償措置が十分に機能していないとの疑いは生じるものの、時限的な立法であることから、
本来の機能を果たしていないという状態にまで至っていないことから
労働基本権の制約が解除されたというところまではいかないと解釈される可能性は高いように思われます。
また、国家財政の現状に照らせば、削減措置それ自体の違法性・違憲性についても
積極的な判断が出るのは難しいように思われます。
 
 ◆昭和44(行コ)55  昭和47年02月16日  最高裁判所第三小法廷判決
  「公務員についても憲法によつてその労働
  基本権が保障される以上、この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保
  たれることを必要とすることは、憲法の趣意であると解されるのであるから、その
  労働基本権を制限するにあたつては、これに代わる相応の措置が講じられなければ
  ならない。」
  「制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関す
  る勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司
  法機関的性格をもつ人事院を設けている。」
  「公務員の従事する職務には公共性がある一方、
  法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代
  償措置が講じられているのであるから、国公法九八条五項がかかる公務員の争議行
  為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益
  の見地からするやむをえない制約というべきであつて、憲法二八条に違反するもの
  ではないといわなければならない。」
 
 ◆平成7(行ツ)132 平成12年03月17日 最高裁第二小法廷判決
  http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/306957A311DD8BD649256F390018DC7E.pdf
  「所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯する
  に足り、右事実関係の下においては、本件ストライキの当時、国家公務員の労働基
  本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を果たしていなかったということが
  できないことは、原判示のとおりであるから、右代償措置が本来の機能を果たして
  いなかったことを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。」
 
  河合・福田補足意見
  「原審が認定した事実関係の下では、昭和五六年度における人事院勧告の一部不実
  施に引き続く同五七年度における人事院勧告の完全凍結をもって、本件ストライキ
  の当時、国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を失っ
  ていたとまではいうことができないと考える」
  「ILO結社の自由委員会報告書による指摘を待つまでもなく、適切な代償措置の
  存在は公務員の労働基本権の制約が違憲とされないための重要な条件なのであり、
  国家公務員についての人事院勧告制度は、そのような代償措置の中でも最も重要な
  ものというべきである。」
  「しかしながら、前記のように代償措置がその機能を完全に失っていたとはいえな
  いこと、本件ストライキは、当局の事前の警告を無視して、極めて大規模に実施さ
  れたものであること、上告人らは、全農林労働組合の中央執行委員会の構成員とし
  て、本件ストライキの実施に積極的に関与して指導的な役割を果たしたもので、そ
  の行為は、国公法九八条二項の禁止する争議行為を共謀し、そそのかし、又はあお
  ったものとして、刑事処罰の対象ともなり得るものであったことなどを考慮する
  と、上告人らに対する本件各懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範
  囲を逸脱し、これを濫用したものとまで断ずることはできないといわざるを得ない。」
 
 ◆平成15年12月11日 最高裁第一小法廷判決 上記同旨
 
 ◇国家公務員の労働基本権に関する総務省の説明