子供が利用した携帯電話ゲーム課金の支払に関する一考

>携帯「無料」ゲーム アイテム購入→高額請求 平均9万5000円 苦情が急増
産経新聞 2010年12月29日(水)21時32分配信
> 「無料」とうたった携帯電話のゲームサイトをめぐるトラブルが急増している。
>「子供に使わせたら高額な利用料を請求された」という親からの相談が目立つ。
国民生活センターは「本当に無料かどうか確認を」と注意喚起している。(大矢博之)
 
>今春、都内に住む20代の女性は携帯電話会社からの請求額に驚いた。
>「無料」だったはずが、請求金額は約3万円に上っていた。
> 仕事が忙しかった女性は、小学校低学年の息子を楽しませるため、
>携帯電話の無料ゲームで遊ばせていた。
>ところが、ゲームで使用する特別アイテム(道具)を得るためのくじは1回300円と有料。
>夢中になった息子は十数日間で100回近く有料くじを購入していた。
> 思わぬ請求に女性はゲームサイトの運営会社と交渉。
>だが、運営会社は「子供のせいにしている」と反論し、減額に応じなかったという。

>約15万円を請求されたという40代の母親からは「小学生の息子は無料と思い、私も支払い時は規制が
>かかると思っていた」との相談が寄せられるなど、無料と思い込んでいたケースが大半を占めるという。
> 相談者がたらい回しにされるという問題点も。
>携帯電話会社は「収納代行をしているだけ」、
>サイト運営会社は「ゲームの場を貸しているだけ」、
>ゲーム製作会社は「ゲームを作っているだけ」と応じるという。

> 木村相談員は「消費者を守る制度がまだ未熟。
>サイト運営会社は、子供に簡単に課金できない仕組みにすべきだ」と指摘。
>その上で「親も『知らなかった』では済まされない。子供に遊ばせる前によく確認を」と呼びかけている。
 
 携帯ゲームの課金について、小学生の子供は良く分からずに無料と思って使っており、親も支払時には特別な手続が必要になって規制されると考えたが、実際には高額の課金になっていたというケースです。
 法的な問題にならないようにするためには、記事が指摘するとおり、運営会社が簡単に課金できない仕組みにし、親も子供に対して適切な指導をする、など、提供側も消費者側も賢くなるのが第一だとは思います。
 ただ、親に対して、携帯で遊ばせるなとか十分に課金の有無を確認して有る場合には絶対に使わないよう指導しろと言っても、現実にはいろいろな支障があって出来ないこともあり、また消費者側の方が情報に疎いのは消費者契約法などがあることからしても明らかなところであって、消費者側が賢い方がいいですが、賢くないからダメだということはできないと思うわけです。
 法的な話の以前に、現実的には、運営会社、親だけにとどまらず、さらに公的規制(国家による立法など)を組み合わせて適切な課金の運営が行われるのが望ましいと思います。
 
 政策論は以上にして、法律的なところを少々。本件では、
①消費者がゲームの課金に関して支払の義務を負っているどうか(支払拒絶の法的根拠)、
拒絶できる根拠があるとした場合に
②収納代行に対してそれを言えるか(抗弁が別個の契約に基づく相手方に対しても主張できるか)、
の2点が問題になるでしょう。
 
 この問題の参考になると思われるのが、平成13年3月27日の2つの最高裁判決(ダイヤルQ2事件(福岡高裁・広島高裁))です。
 
福岡高裁の事件の上告
◆事案の要約とその結論(筆者の要約)
 18歳の子供が親に内緒で家の電話からダイヤルQ2を使って4か月間で合計41万円の情報提供料の支払を、電話会社(収納代行として)から請求された。親は最初の月の請求が来た時に、あまりに高額なので電話会社の事務所に出向いて問い合わせると、Q2の情報提供料だと言われ、子供が使ったのでは?と言われて親が子供に確認したところ使用していたので、やむなく支払った。(その後の月の分にも情報提供料が含まれていると知って支払った)。なお、収納した情報提供料については、その後、電話会社が手数料をさっぴいた残額を情報提供会社に支払った。
 この親が、電話会社に対して不当利得返還請求をしたという事件。
 結論としては、親には情報提供料を支払う義務は無く、不当利得返還請求が41万円全額(+遅延損害金)につき認容された。
 
●広島高裁の事件の上告
◆事案の要約とその結論(筆者の要約)
 中学3年生男子が、親の承諾なく、見知らぬ女性と話ができるQ2情報サービスを利用して、平成3年2月分が8万1525円、同年3月分が1万9555円にそれぞれなった。親はQ2サービスの存在及び子供による利用を知ってすぐに利用規制をかけた。
 親がこの期間の通話料の支払を拒絶したので、電話会社が通話料の支払を請求したという事件。
 結論としては、新たなサービスを導入した電話会社は、通話料のうちの半額分について信義則によって親に対して請求できないとして、4万0762円及び9777円(+各延滞利息)の限度で請求できるとした。
 
 という2つの判決をみると、これ自体が携帯ゲームでの課金状況に完全に合致するわけではありませんが、それなりに参考になるように思われます。2つの判決を敷衍すると、課金に関して、実際の利用者である未成年者の親が、利用に気付いた時点で適切に対処しており、かつ、提供側に一定の不備がある場合には、代金の支払を拒んだり、支払った代金の返還を求めたりしたら、それについては全部あるいは相応の限度で認められる余地がある、ということになりそうです。
 
 ともあれ、上の記事を読む限りでは、運営側が強気のようですが、消費者側に実際に支払を拒絶されたら訴訟のコストやその他いろいろを考えるとなかなか大変なように思いました。
 
 もちろん、私は、ゲームの課金制度に関係する法的構成あるいは当事者間の法的関係がどのようになっているか知りませんし、約款のチェックなどをした訳でもありません。さらに、上記判決の詳細な検討や評釈の確認などはしておらず、判決の射程をさほど考えずにざっくり書いただけなので(どちらかというと、固定電話という家庭に置いてあるもの+Q2という当初は珍しかった?システムであって、個人が保有する携帯電話で月いくらの有料のものがあふれている携帯サイトの状況では別の判断となるところも十分にあると思われます)、今回の文章を真に受けたとしても、全て理性的かつ十分な検討を経た上での 自 己 責 任 でお願いいたします。
 
<参照>
●福岡
 (判示事項)
>1 加入電話契約者以外の者がいわゆるダイヤルQ2事業における
> 有料情報サービスを利用した場合における加入電話契約者の情報料支払義務の有無
>2 加入電話契約者以外の者が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における
>有料情報サービスに係る情報料について加入電話契約者が第1種電気通信事業者に対してした支払が
>法律上の原因を欠く場合に同事業者がこれによって得た利得を喪失したものとはいえないとされた事例
 
 (裁判要旨)
>1 加入電話契約者以外の者がいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスを利用した場合には,
加入電話契約者は,情報料債務を自ら負担することを承諾しているなど特段の事情がない限り,
>情報提供者に対する情報料の支払義務を負わない。
>2 加入電話契約者甲以外の者が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスに係る
>情報料について,甲がその支払義務を負わず,甲の第1種電気通信事業者乙に対してした支払が
>法律上の原因を欠くという判示の事情の下においては,乙が受領した情報料相当額の金員を情報提供者に
>対して引き渡したとしても,乙は,これによって直ちに甲から支払を受けたことにより得た利得を喪失した
>ものとはいえない。
●広島
 (判示事項)
加入電話契約者の承諾なしにその未成年の子が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における
>有料情報サービスに係る通話料のうちその金額の5割を超える部分につき第1種電気通信事業者
加入電話契約者に対してその支払を請求することが信義則ないし衡平の観念に照らして許されない
>とされた事例
 (裁判要旨)
>第1種電気通信事業者甲が,一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形で
>いわゆるダイヤルQ2事業を開始するに当たって,同事業における有料情報サービスの内容や
>その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに,
>その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったにもかかわらず,
>平成3年当時には,これをいまだ十分に果たしていなかったこと,その結果,加入電話契約者乙が
>同サービスの内容及びその危険性等につき具体的な認識を有しない状態の下で,
>乙の未成年の子による同サービスの多数回・長時間に及ぶ無断利用がされたために
>通話料が高額化したことなど判示の事情の下においては,乙が料金高額化の事実及び
>その原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料については,
>甲がその金額の5割を超える部分につき乙に対してその支払を請求することは,
>信義則ないし衡平の観念に照らして許されない。
>(補足意見がある。)