安倍元首相射殺事件の雑感

令和4年7月8日、奈良市内の街頭演説中、安倍晋三元首相は背後から、犯人から、自作の銃で近距離から2発射撃されて射殺された。

この事件については、①警備、②政治家の殺害、③銃の自作、④犯人の今後、⑤統一教会問題など、様々に気になるところがある。感想めいたことをひとまず書いておきたい。

①警備。とりあえず、攻撃される可能性を考えていないのは、日本が平和という安全神話で全員が行動してしまっていると思われる。本来、悪い事態を想定すべき立場にいた警備さえも。その上、1発撃たれた後に2発目に対するアクションを周囲の誰もが取れていないとか、結果論であっても、ずさんと言われてしょうがないだろう。

②政治家の殺害について、民主主義への攻撃という言葉が当初わあっと使われたが、犯人の動機が、自身の教育機会が統一教会に奪われたことで、関係性を外部に示していた中で最右翼(最有力の意味で)の安倍元首相を襲ったとなって鎮静化したように思われる。この民主主義への攻撃というのは、どうやら犯人の動機いかんによってそういえるかどうかが決まってしまう位置づけで話されていて、逆に、民主主義を攻撃する動機ではない犯人は、その悪質さが一段落ちるという評価を与えているようにも思われる。過去にあった長崎市長が市長選中に射殺された事件も、個人的な恨みによる攻撃で、1審は死刑だったが、2審は無期懲役になっており、今回の事件の量刑も、公平性を重視するなら、それに倣わざるを得ない可能性が高いと思う。ただ、それでいいのか、政治家の殺害について個人的動機のあるものをひそかにバックアップできれば、死刑にならないで重要な政治家を殺せてしまうことにもなる。

③銃の自作。日本は猟銃などを除けば、基本的に銃を市民が持っていないのは、社会の安全にとって重要なことだと実感している。なのに、銃が自作できて使用できてしまうというのはものすごく危険なことだろう。警察官も防刃チョッキは着ていても防弾チョッキは日常的には着用していないのではないか。今回は殺人の手段の中に紛れてしまうが、銃の作成、適合する銃弾・火薬の作成、発射については、やはり相当厳しい態度で臨むべきだろう。

④犯人の今後。犯人の述べる動機については、飛躍があるといったマスコミ報道もいくつか見たが、犯人として十分にあり得るそれほど飛躍していない合理的な動機と思われた。今、精神鑑定に掛けられているということだが、病的な要素を疑わせる事情は出ていないと考える。検察官も重大事件なので、公判でその点を主張された場合に備えて念のため実施しているとみるべきだろうか。いずれにせよ、起訴されて、動機の問題をどの程度立証されるのか次第で、審理計画を立てる期間の長短も定まりそう。検察官としては求刑は死刑で、裁判員裁判は前例に倣えば無期懲役ということで結論が出てしまいそうだ。

統一教会問題。犯人と同世代の自分にとっては、統一教会霊感商法合同結婚式も大学での原理研の活動も、選挙における人材や投票確保のために、それと関係を持つ保守政治家がいることも、ある意味では常識に思っていた。個々的な問題に対する対処は何かしらあったが、決定的に問題とされるまで行かずに収束してしまった感がある。それが改めて日の目を見たという意味では、犯人が望んだ方向で、この事件に一定の影響力が生じたということかもしれない。今後、カルト宗教問題について改めて対応がなされるとともに、政治家がいかに結合力の強い団体の支援を受けているのか、多面的に検討されていってもらいたいと思う。